48.技術部長

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48.技術部長

 マーズ・エンタープライズ2号機が、オリンポスに向けて、二つのカプセルを投下した。それらは、無事にコロニーの近くに着陸した。ケイはカプセルの到着と資材搬入の様子をレポートし、地球に送信した。それは当然、プライムタイムでトップニュースとして放送された。  中国の「火星」は、六基全てがアリシア山の麓に到着した。だが、コロニーの様子は、情報統制の厳しい中国らしく、ほとんど明らかにされていなかった。ニュースの中ではコロニー建設が順調に進んでいるとコメントされていたが、実情は全く不明だった。  そして、衝撃的なニュースが、「火星」最後の着陸カプセルが到着した直後に、中国当局から発表された。中国は二年後に、百人の人間をアリシアに送り込み、十年以内には火星人口を千人にするという計画を明らかにしたのだった。フロンティア農場の責任者、ペドロ・クリベーラの見立ては正しかった。中国は本格的な火星植民を想定していたのだ。マディソンは、しきりに偵察部隊を送りたがったが、そんな人員は、オリンポスにもフロンティアにもいなかった。周回衛星からの画像を分析する限り、中国コロニーは少しずつ形を整えつつあるようだった。  マーカス・アンドレッティとミヒャエル・バラックはバギーを「コバヤシ谷」から回収し、コロニーに帰還した。二人ともこの長期任務で、ジェニファーを失った虚脱感から幾分は立ち直ったように見えた。ケイも二人を笑顔で迎えることができた。  火星開発機構は、一年後に地球を経つ「マーズ・カーゴ」の第一便で、リン鉱山開発用の機材を集中的に送ることを決めた。採掘用のドリルや運搬重機、ベルトコンベアーなどだ。さらに、採掘地に設置するハブ、生命維持装置、そして発電施設も加えられていた。それはまさしく新たなコロニーの建設に等しかった。計画上の大きな問題は、ジェニー・クリフの近くに水がないことだった。それまでのコロニーは、地下に水脈がある場所に設けてきた。水さえあれば、そこから水素や酸素を分離し、呼吸のための酸素やエネルギーとなるメタン、エチレンなどを自前で製造できるからだ。新コロニーは、生命維持だけでなく、工業用水も含めた大量の水を必要とする。それをどこからか運ばなければならない。マーズ・カーゴは、そのためのタンクローリーも運んでくる。オリンポス班には、ジェニー・クリフからできるだけ近い場所に水源を探すという任務が新たに加わった。
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