48.技術部長

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 ケイはコロニー・オリンポスの整備状況やマーズ・フロンティアの近況を連日、地球に伝えた。UNNニュースは、トップにケイが登場しない日の方が珍しいくらいだった。マーズ・エンタープライズが5機体制になることが発表されたこの日は、逆に火星発で、ジェニー・クリフからビークルで二、三日の場所に、地下水脈を発見したというスクープを送り、米標準時間の正午のニュースのトップで放送された。  ケイはある日気付いた。最近は火星発よりも、地球から届くニュースの方に、刺激的な話題が多いということに。  火星開発を巡る情勢は日々刻々と変化している。火星開発機構はリン鉱石をどのように効率的に地球に運ぶか、その手法の検討に多くの頭脳と時間を割いていた。人口が百億に達している地球の食糧不足は、大部分の地域で極めて深刻な状況にある。農地開拓は限界を超えており、多くの国では、地下水面が低下して、農業用水だけでなく飲用水にさえ事欠きつつあった。  農地が残っている国はまだマシだった。アジアやアフリカ、南米の一部は、温暖化による砂漠化の進行で、農用地は年々減少していた。リンが全てを解決する訳ではないが、少なくとも、今使える農地の生産量は維持できる。火星開発機構には、世界各国からリン分配の要請が殺到していた。だからこそマーズ・エンタープライズを二機も余計に建造したり、マーズ・カーゴに積み込む機器を充実させたりする資金が調達できたのだ。  中国もリンには強い興味を示し、火星上でのコロニー間貿易や地球―火星間の輸送協力などを、非公式に打診していた。マディソンは相変わらず、中国がジェニー・クリフのリン鉱山を武力で奪い取るつもりではないかと疑っていた。地球でも、新しいコロニーを武装させるかどうかについて、論議が本格化していた。
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