48.技術部長

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「この星のコミュニティがマーズ・フロンティアだけで完結していた頃は、公会堂か農場に集まって話をすれば事が済んでいました。でもそんな時代は終わりました。火星社会は間もなく三つのコロニー、中国も含めると四つのコロニーで社会が築かれていきます。将来はもっと増えていく。しかし、このままだと、それぞれのコロニーは、情報的に孤立してしまいます。地球のことも、火星上のことも、何も分からないまま、言われた任務をこなすだけ。それが果たして住む人間にとって、幸せな状況でしょうか。この星に住む人たちには、自分の星や地球で何が起こっているかを知る権利があります。僕は地球でやっていたのと同じように、この星でも住んでいる人たちにいろいろな情報を伝える仕事がしたい」  この申し出に、マディソンは反論した。 「火星の住人が増え、コロニーが分散されると、つまらない噂が想定外の内容で広がる可能性が増える。そうした事態は避けねばならん。だから、情報を正確に伝えることが重要だというのは理解する。だからと言って、全てをそのまま伝えては困る場合もある。情報は諸刃の刃だ。中国との情報戦という要素もある。ケイがどういう形を考えているのかは分からないが、我々サイドのコロニーが傍受できる形であれば、中国側にもその情報は漏れてしまうと考えるべきだ。ケイの言う情報は、我々側の住民にメリットをもたらすだろうが、中国コロニーにも恩恵を与える。それで良いのか。奴らに恩恵を与えるということは、我々には不利益になるということだ。差し引きを考えると、デメリットの方が大きいんじゃないか。今のこの星にジャーナリズムはなじまない」
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