48.技術部長

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 ピカールは別の意見だった。 「それは素晴らしいよ、ケイ。火星コロニーは、単なる科学実験場ではなくなった。生活だけでなく、産業や経済、そして時には政治的なことも考慮しながら、自分たちで高度な判断を下さなければならなくなる。もうこの星は閉鎖されたコロニーだけで完結する模擬社会じゃなくなった。我々は地球にいた時と同じように、他のコロニーや地球のことを知らねばならない。だが、目隠しされ、耳を塞がれた状態のままで、正しい判断は下せない。ケイが我々の目となり、耳となって、情報を伝えてくれるのは大歓迎だ。マディソンが文句を言っても気にするな。ブレ博士には僕からきちんと推薦しておくよ」  ケイはピカールの賛同が心強かった。 「ところで、ケイ、情報を伝えるって、一体どういう方法でやるつもりなんだ。ラジオ放送でも始める気か」 「テレビさ。俺にはそれしかできない。地球で言えば、インターネットテレビのようなものかな。コロニー間でデジタル・データを遣り取りして、それをハブのイントラネットで配信する。原理的にはそんなに難しいことじゃない」 「こことフロンティアとジェニー・クリフの三カ所を結ぶには、特別な通信インフラが必要になるんじゃないか。今のままだと、通信衛星か長距離用の短波無線しかない。衛星のトランスポンダーはいっぱいだし、短波じゃ飛ばせるデータはたかが知れてる。映像データを送れる通信手段がないと、せいぜい音声のラジオ放送にしかならないぞ」 ピカールの指摘はもっともだった。そこで、ケイは、送受信技術に関するとっておきの人材に連絡を取った。
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