48.技術部長

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「アダム、君に頼みたいことがあるんだ…」  数日後、コロニー間の通信で、アダムを呼び出した。ケイは十歳の子供にも分かるように、噛み砕いて自分の構想を説明した。 「要するに、火星にインターネットテレビ局を作るってことですね」  アダムは聡明な頭脳で、言わんとする所をすぐに理解した。 「オリンポスやフロンティアのニュースを、地球に送るだけでなく、火星上でも放送するんだ。そこにいたら、オリンポスの様子は詳しく分からないだろう。地球から届くニュースも加えて、火星で番組を放送するんだよ」 「それは楽しみだなあ。バスケットボールの試合やママのヴァイオリン・リサイタルの番組もあったらいいな」 「スタッフが増えたら、娯楽番組も可能になるさ」 「スタッフはいるの?」 「今は僕だけだ。そこで、アダムに頼みたいことがあるんだ」 「何? 僕、レポーターになるの?」 「やりたければレポーターにもなれるさ。でも、とりあえず今やってほしいのは、技術部長なんだよ」 「技術部長?」 「やりたいことは山ほどあるんだが、テレビ局に一番大事なものがないんだよ。アンテナさ。映像も含めて大量のデータを通信する手立てがないんだ。今ある連絡用の周波数を使う訳にはいかないからね」  アダムは無線の向こうでしばらく黙った。 「と言うことは、僕にテレビ用電波の送受信装置を作って欲しいということですね」 「さすがアダムだ。電波を飛ばせなければ、番組は放送できない」 「二つのコロニーの間は直線距離で約二千五百㌔あるので、中継器を置いてUHF波で飛ばすのが最適だと思います。衛星通信なら最高だけど、トランスポンダーに空きはないですね」 「その通り」  アダムの頭の回転の速さには恐れ入る。十歳になったばかりの子供なのに。 「問題は、中継施設ですね」 「一カ所は決まりだ。ジェニー・クリフだよ。あそこには近々新しいコロニーができる。そう言えば、コロニーの名前も決まったようだね」 「アマゾニス・イーストですよね? 僕はジェニー・クリフのままでいいと思うんだけどな…。オリンポスとアマゾニス・イーストの間は、標高差があるのでアンテナを高くすれば中継点なしでも届くかもしれません。でも、アマゾニスとフロンティアの間は地形が悪すぎる。その間に何カ所かの中継所が必要になると思いますよ」 「それは現実的ではないな」  ケイとアダムは、それから日を空けずに、送受信網の構築について何度も話し合った。アダムはことのほか乗り気で、ある日、二人の会話に割って入ったサラが「アダムはまだ子供なんですから、余り根を詰めて仕事をさせないで下さいね」と冗談半分で釘を刺すほど、この計画に熱中していた。
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