49.マーズプレス開局前夜

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49.マーズプレス開局前夜

 二つのコロニーを結ぶ初めての空路が試される歴史的な日が明日に迫っていた。  マーズ・チャイルドのアダム・ブレとシャルル・マルソーを中心としたチームが完成させた試作機は、幅三十㍍という大きな翼に全長十二㍍の細長い軽量機体を持っていた。外観はグライダーのようだが、尾翼の下には小型のプロペラエンジンがマウントされていた。アダムのたっての希望で、試作機には「ジェニファー・ゼロ」という名前がペイントされていた。  エンジンが後部にあるため、機体の重量バランスを取るために、貨物スペースは前方に設けていた。有人機ならコクピットがある部分だ。コロニー・オリンポスへの初荷は、復活した農場で採れた野菜、果物や医薬品が大半だった。もちろん、アダムらが製作したデータ送受信機も含まれている。積載貨物の総重量は百㌔に満たないが、もし飛行が成功すれば、火星史に残る快挙になる。 「通信アンテナ用の気球をくっつけたお陰で、滑走路の問題が解決したんですよ」  気球の設計が固まった時、アダムはこう説明した。 「最初の計算では、ちゃんと離陸するためには、滑走路が三百㍍必要でした。でも、それだけの直線を整備するには、何カ月もかかってしまいます。だけど、気球の浮力の助けを借りたら、その半分以下で、離陸できます。一種の垂直離着陸機ですね。気球を設計したら、いろんな問題が一気に解決しました。滑走路ももう出来上がっているんですよ」 「気球は飛行の邪魔にならないのかい?」  ケイは訊いた。 「火星は空気抵抗が少ないから、気球側のバランスをきちんと取ってやれば、大きな障害にはなりません。飛行機の揚力をアシストするメリットには替えられません。高度千㍍に達したら切り離し、気球はそのあと自力で浮上します。数時間で、予定高度の六千四百㍍に到達します。飛行機は身軽になったあと、加速して、高度五千㍍を飛行します」 「到着するのが待ち遠しいよ」 「オリンポスまでの飛行時間は、約六時間です。夕方には電波試験ができますよ。レポーターの仕事をするのが楽しみだな」 「だけど、カメラは? そこにはないだろう」 「何を言ってるんですか、カメラがないとレポートできないでしょう。もう作りましたよ。仕様は全部分かっているんだから。ケイにプレゼントしたものよりは、少し性能が劣るけど、充分に使えるレベルです。懐かしいフロンティアの様子を、オリンポスのみんなに見せて上げて下さい。復興した農場のレポートは感動的ですよ」
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