49.マーズプレス開局前夜

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 ケイは「ジェニファー・ゼロ」の処女飛行を明日に控えた夜、デイブ・マシューズとUNNのニューエンダイク編集局長宛てに長文のメールを送った。 火星初の通信社「マーズ・プレス」の設立を報告するためだ。 <デイブ、俺はこの星に来て、随分変わった。火星行きを言い渡された頃、俺は自信を失い、自棄になっていた。二年間島流しにされるような気分だったと言えるだろう。だが、ここに来て、地球じゃ想像もできないような体験がたくさんできた。  ここで得たものをうまく言い表せないが、一番近いのは、挑戦心を学んだということだと思う。俺が言いたいのは、名誉とか仕事とか金儲けとか、そんな話じゃない。生きていくことに対するチャレンジだ。この星は厳しい。ちょっと気を抜くと、いや注意深くしていてもジェニファーのような事故が突然、簡単に起こってしまう。だが、それを怖がって、ハブに閉じこもっていては、何のために生きているのか分からない。だから、この星で人間らしく生きていくためには、挑戦する気持ちと少しばかりの勇気が常に求められる。どっちが欠けても駄目だ。俺はここで、ジェニファーや火星コロニーの仲間たちから、生き抜く力をもらった気がする。  そして、本題だが、俺は明日、新しいチャレンジをこの星で始めようと思っている。『マーズ・プレス』の創設だ。地球と火星のニュースを相互に伝え合う通信社のようなものだと理解して欲しい。〈火星から地球へ〉だけでなく、地球発のニュースを火星に住む人たちに提供するんだ。いずれ三つになる火星のコロニーを結んでテレビ放送も開始する>
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