49.マーズプレス開局前夜

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<これから、どの局が火星に記者を送り込んだとしても、マーズ・プレスがある限り、到底太刀打ちできない。局にとっても、メリットは甚大なはずだ。地球なら資本金とか従業員の雇用契約だとかの面倒な手続きが発生するが、幸い、今の火星は法的にファジーだ。会社登記をしなくてもいいし、弁護士だって雇わなくても済む。僕の所属部署をちょっとだけ変更すればいいだけなんだ。俺は局長が承認するのを確信しているよ。  デイブだから正直に言うが、俺はジェニファーが眠るこの星を生涯離れる気はない。マーズ・プレスに協力してくれるメンバーとともに、一生この星で暮らすつもりだ。アダムとシャルルのマーズ・チャイルドは、地球に戻ることが当分叶いそうにない。クリフォードもあの事故で、大量に宇宙線を浴びてしまったから、惑星間飛行は難しいらしい。地球にはもう戻れないのさ。ただ、誤解してもらいたくないのは、俺がここに残るのは彼らへの同情からではない。むしろその逆だ。この星から離れることができない彼らは、敗者では決してない。この星で生き続けるという人類の挑戦の象徴だと思っている。ジェニファーの代わりに、彼らの挑戦を見届けたい。  これは俺の決意表明でもある。局長へのメールで書いた最後の約束が反故にされた時は、局を辞める。そして、この星に残る。もしそうなったら、火星開発本部を含めて、大問題になるだろうが、首に縄をつけて連れ帰る訳にはいかないだろう? もしできるなら来てみろって感じだ。仲間はこの星に居続けることを認め、支援してくれると信じている。  もちろん、デイブも賛成してくれるだろう? 今はまだ人口もニュースも少ないが、いずれ仕事が爆発的に増えてくる。そうなると、優秀なディレクターやレポーターが欲しいところだ。俺としては、デイブが近い将来、この星に来てくれることを望んでいる。半分冗談だが、半分は本気だ。いろいろ不便はあるが、住んでみると、この不毛の星もなかなか面白い所だぞ>
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