5.スイート・ホーム・マーズ

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「ところで、ジェフ。ディナーの用意はできたかい」  電話の声の主は、ユージン・ブレ博士だった。 「まだです。今、放送機材のメンテナンスをしていたところです」 「良かったら、今夜食堂に来ないか。さっき話したディナーパーティーに招待するよ。火星産の野菜がメインディッシュだぞ」 「それはうれしいですね。ぜひご一緒させてください」 「時間は午後六時からだ。ところで、ディナーに招かれた時のマナーなのだが…」 「分かってますよ。おみやげでしょう。バーボンウイスキーなんかはどうでしょうか」 「それは最高だ。みんな喜ぶよ。地球から新しいメンバーが来ると、何より楽しみなのは、地球からのおみやげでね」 「そうでしょうね」 「それでは、午後六時に。私とマディソン副司令の家族、それと的場博士が参加する予定だ」 「オールスターズですね」  午後六時ちょうど、ケイが食堂のドアを開けた時、通路の空気が室内に勢い良く流れ込んだ。調理施設を備えるできる食堂は、室内の汚染空気が外部に流出しないように、ハブの他室より、少しだけ気圧を下げてある。  招待された全員は既に中央の円形テーブルに掛けて、談笑していた。ブレ一家の三人のほか、コロニー副司令のジェームズ・マディソンと妻のディアナ。それと的場誠一郎博士がいた。的場博士は独身だった。 「ケイ、時間通りね。ようこそ私たちの高級レストランへ。ここに来るのは、初めてでしょう」  サラがおどけた口調で迎えた。サラはユニフォームの黄色いつなぎではなく、サテン地のシンプルな白いブラウスにひざ下まである黒いスカートをはいていた。地球だとかなり地味な服装だが、サラが着こなすと上品で華やいだ雰囲気を醸し出していた。
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