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食堂内の照明は個人の居室より若干暗く、壁の色も煉瓦色に近いブラウンを基調としていて、テーブルと椅子がもう少し立派だったら、ちょっとしたグリル・レストランといった趣だった。
既に牛肉が焼ける香ばしい匂いが充満していて、ケイの食欲を掻き立てた。料理を作る音と匂い―これは地球を出発してから半年以上忘れていた感覚だった。反射的に唾液の分泌が活性化されたのを、ケイは心地よく感じた。
「もうすぐ出来上がるから、テーブルについて待っていてくれ」
声のする方角に目をやった。声の主はフライパンを振っている的場誠一郎だった。電気調理器が並んだキッチンの上では、大きな換気扇が三つもついたダクトが仰々しいうなり声を上げていた。
「誠一郎はいつもシェフなの。味は保証できるわよ」
サラがウインクした。
ディアナとあいさつを交わし、ケイは空いている自分の椅子に腰掛けた。尻がはみでるほどの小さな折り畳み椅子だった。これもきっと端材を使った手作り品だろう。
「やあ、アダム。さっきはありがとう。テレビ出演は緊張したかい?」
隣の席にはアダムが座っていた。
「いえ、そんなに緊張はしませんでした。それより、今度、放送機材を見せてもらえませんか?」
「メカに興味があるのかい。いいとも。あす農場を取材するので、その時に思う存分見たらいい」
アダムはたちまち瞳を輝かせた。
「ありがとうございます。あの小さなカメラで撮った映像が地球まで届くんですよね」
「そうだよ。あのカメラは、最新型の高解像・高感度カメラでね。あれ一台で、家が建つくらい高価なんだ。もし壊してしまったら、僕が十年働いても修理費を返せない」
「もし故障したら…」
「地球なら電気屋さんに修理に出せばいいけど、ここじゃそうはいかないよね。だから、このカメラは、中の複雑な機械が大きく六つのパッケージに分かれていて、それをカセットのように交換できるよう、特別に設計されているんだ。だから、メカに詳しくない僕でも、簡単に直せる。というより、交換できると言った方がいいかな。ユニットの予備はそれぞれ二セットずつ持ってきているので、交換品が地球から届くまで、何とかそれで持たせたらいいんだよ」
「詳しい構造が知りたいな。そこまで高性能でなくても、似たものなら造れるかもしれない」
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