5.スイート・ホーム・マーズ

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「ところで」  全員の前に、ステーキと野菜サラダが並んだあと、ブレ博士が口を開いた。 「今日は、我々の新しい友人であるケイ・コバヤシ君を迎えてのディナーになるが、その前に、ケイから恒例のプレゼントが…」 「あ、すっかり忘れていました。ちょっと待って下さい」。持ってきたディパックから、カナディアン・クラブのボトルを取り出した。 「十二年ものです」 「おお、バーボンか。二年ぶりになるなあ」  マディソン副司令が目を細めた。 「カナダ出身なので、比較的マイナーですが、このバーボンを選びました。アダム君にはうれしくないかもしれないけど…」  ボトルをブレ博士に手渡すと、アダムは肩をすくめて、わざとらしく唇を尖らせ、直後にニコリと笑った。可愛らしいしぐさだった。  食事は、地球の常識だと、決して豪華な部類には入らないだろう。コーンポタージュのスープとシンプルなビーフ・ステーキ、それに野菜サラダ。まるでファミリーレストランの昼食のようだ。しかし、半年に及ぶ宇宙船でのレトルト食に飽きていたので、ケイにはテーブルの上に並んだ料理がこれ以上ない豪勢なディナーに感じられた。宇宙船だと、調理済みの食材パックを電気オーブンレンジで温めたり、チューブに入った流動食をすすったりする食事が当たり前。この日のように、調理されたばかりの温かい料理を皿に載せ、ナイフとフォークを使って味わうのは、久しぶりのことだった。でき合いの料理をレンジで温めるのと、素材から調理するのとでは、温かさの本質が違う。
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