6.農場

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6.農場

 農場の取材は午前十時からで、コロニーの住人の大半、予定では二十人近くが集まる予定だ。設備や機能はもちろん、バスケットボールの練習風景も撮影できることになっている。ケイはベーコンエッグのレトルトパックを電子レンジで温め、マーガリンを塗ったフランスパンとインスタントコーヒーで朝食を済ませた。最後には、プロテインやビタミン、ミネラル類を調整したサプリメントの粉末を冷たくなったコーヒーで流し込んだ。昨夜のディナーに比べると、何とも味気ない食事だが、サプリメントの助けなしには栄養素を完全に摂取できないのがこの星の現実だ。ブレ夫妻が昨日のインタビューで、食事の重要さを強調していた意味が、今さらながら身にしみた。  取材時間まで十五分になったのを見計らい、ケイは器具一式を詰め込んだチタニウム合金のケースを持ち、農場に向かった。農場の玄関・二重構造の気圧調節室は、昨夜ディナーを楽しんだ食堂の入口からさらに二、三十メートル先にあった。入口に続く長い通路は、摂氏数度しかない。足元から冷気が忍び寄ってくる。ケイは足早にエアロックへと歩を進めた。  掌紋認証装置に右手をかざすと、頑丈な金属扉が静かに開いた。中はホテルのシングルルーム程度の広さの部屋で、小さな椅子が左側の壁に五つ並んでいる以外に何もない、殺風景そのものの内装だった。陰気なライトが申し訳程度に室内を照らしていた。恐る恐る中に入ると、扉は数秒後、自動的に閉まった。ケイはマニュアルにある通り、今は入った部屋の奥へと進み、ドアの横にある認証装置に、今度は左の掌をかざした。短い電子音のあと、目の前の扉が、低いモーターを響かせながら左右に開いた。そこにはひとつ目と同じような小部屋がもう一つあった。部屋の奥に進み、ケイは同じやり方で、第二の部屋の扉も開けた。  ドアが少し開いた途端、ドームからは生温かい空気が溢れ出てきた。扉が完全に開き、農場の全貌を目にした時、思わず息を呑んだ。
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