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「農場テイク1、録画停止」
カメラの赤いランプが消えた。
ペドロはふうっと大きなため息をついた。
「なかなか緊張するものだね」
「十分落ち着いているように見えましたよ。全く問題ありません。この調子でお願いします」
これからは農場内を移動するので、ケイはインカムを装着し、ワイヤレスのスイッチをオンにした。カメラは三脚から取り外した。
「それでは、作物の説明に移ります。次に行ってもいいですか」
「じゃあ最初はトマトのコーナーに行こうか」
ペドロに促されて、二人は農場の奥へと進んだ。トマトの栽培エリアは、エアロックから最も手前にある。全長は五十メートルほどで、金属製の棚が途切れなく一直線に奥に連なっていた。水耕栽培なのに、なぜか土の匂いがした。
苗は三十センチくらいの高さにある棚に生えている。実の熟し方は、ほぼ十メートル単位で違っていた。一番手前のグループは、ほとんどが小さな青い実で、次の集団は青いながらも実は若干大きい。奥に行くに従って、熟度が高い様子で、半分から奥には、食べごろの真っ赤な実がたくさんぶら下がっていた。茎、葉は鮮やかな緑で、つややかに輝いている。根の部分は、小さな穴の開いたアルミニウム容器で覆われ、中からは養分を含んだ溶液が流れる音がかすかにした。
「じゃあスタートしますね。農場テイク2、録画開始」。
ケイはカメラを片手に録画を再開した。
「ここがトマトの栽培コーナーです」
ケイの言葉を受けて、ペドロが話し始めた。
「トマトは、地球でも、月でも、早くから溶液栽培に成功していた作物です。ここでも当初から順調に採れました。収穫量は安定していますね。生でも食べられるし、いろいろな料理にも使え、重宝する野菜です」
ペドロは、溶液が流れる根の部分の容器を手で示し、話を続けた。
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