7.農場長ペドロ・クリベーラ博士

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「養分は、主に地球から粉末状で運んだものを水に溶かして使っていますが、最近は、火星の岩石から得たリンやカリウムなどの化合物も投入しています。最も役に立っているのは、このコロニーで排出される食物の残渣物や排泄物です。これを湿式酸化という手法で細かい分子にして、そこから肥料成分を抽出することに成功しています。火星産の養分だけで作物が生産できるようになる日も近いでしょう」 「昨夜はこのトマトを味わいましたが、甘味、酸味は地球のものと変わりないですね」 「地球のものと変わりないというのは控えめですね。溶液の成分調整が合ってきたので、品質は地球産でも最高級の部類に達していますよ。地球のように生産地と消費地が遠く離れていないので、完熟したものを収穫後すぐに味わえるので格別です」 「ドーム内の環境制御はうまくいっていますか」 「半世紀以上前、地球では閉鎖された環境で生態系を維持する実験が行われました。砂漠に建設したドームの中に、熱帯雨林やサバンナ、温帯などの生態系を人工的に作り、大気や水はもちろん、微生物や食物までも、その狭いエリア内で完全に循環させようとした試みです。その挑戦は残念ながら失敗に終わりました。その後も閉鎖系環境の研究はいろいろな国の機関や企業で細々と続けられ、様々な形で成功や失敗を重ねました。そこから得られた数多くの教訓は、宇宙ステーションや月面コロニーに生かされ、さらに進化を重ねました」  ペドロの話しぶりには徐々に熱が入って来た。
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