7.農場長ペドロ・クリベーラ博士

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「大事なのは、この土の研究が、現在建設している第二の農場の成功につながっていくということです。第二農場では、穀物や豆類を育てることに挑戦します。そのためには、どうしても土が必要です。しかし、何万トンもの土をマーズ・エンタープライズで地球から運んでこられるでしょうか? 土はここで作るしかないのです。次のマーズ・エンタープライズは数百種類の微生物を運んできます。我々人類は微生物の複雑な相互作用を、まだ完全には解明していません。ましてやこの火星という環境で、微生物がどのような増え方、減り方をして、どのように活動するかはやってみないと分かりません。だから、万一の事態に備えて、第二農場は、完璧に隔離された環境で試されます。ハブ・スペースとは通路でつながず、閉鎖系施設として建造することになります。  とても難しい仕事となりますが、成功すれば、飛躍的に高度な農業生産が実現します。そして、第二農場が望む通りの成果を収めることができたら、火星コロニーは、食糧の面でも自立への大きなステップを踏み、もっともっと多くの人が火星に住めるようになります。火星が第二の地球になれるかどうか―それが希望の木の根元に詰まっているのです」  ケイは大きく頷き、「希望の木」の脇にある小さなプールを指差して言った。 「この池は作物用の貯水池ですか?」  「希望の木」の奥には、直径七、八メートルほどの楕円形の小さなプールがあった。 「この池には、植物性プランクトンがいます。火星の環境でもプランクトンが生きられれば、水の生態系を構築することも夢ではありません。種類にもよりますが、火星でも充分に生きていけるプランクトンを見つけることができました。大きな池が作れれば、そこに棲むプランクトンが光合成で酸素を生み出します。第二農場では、植物性に加え、動物性プランクトンや魚類の飼育にも挑戦する計画です」  農場のレポートは、一時間ほどかけて順調に進んだ。トマトの次は、イチゴ、サニーレタス、サンチュ、カイワレダイコン、モヤシのコーナーを回り、最後にメロンの紹介で締めくくった。メロンは最近収穫が始まったばかりとのことだ。ペドロは、すくすくと育っている作物たちを生き生きと説明した。 「かわいい息子、娘のような気持ちだよ」と撮影のあとでケイにつぶやいた。
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