8.ダンクシュート

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「ケイだね。マディソン副司令から聞いているよ。クリフォード・マクガイバーだ」  二メートル近い身長の黒人が握手を求めてきた。上腕二頭筋や大胸筋の発達ぶりが、尋常ではない。ボディビルでもやっているのだろうか。資料では、優秀なBS(ビルディング・スペシャリスト)で、BMI(脳・機械インターフェイス)アンドロイドの使い手だとあった。スキンヘッドがいかにも軍人っぽい。マディソンを副司令と呼んでいるので、前職は軍人だったのかもしれない。 「よろしく。ミスター・マグガイバー」。  マクガイバーはケイが差し出した手を握り返した。力は入っていなかったが、分厚い掌だった。 「それじゃ呼びづらいだろう。クリフォードでいいよ」 「ありがとう、クリフォード。ところで、俺はバスケットボールの経験がほとんどないんだ。高校や大学の体育の授業でやったくらいだよ」 「それはなおさらいい。とにかくシュートしてみるといい。レイアップをやってみろよ」  クリフォードはそういってボールをワンバウンドでパスしてきた。スピードのあるパスだった。両手でキャッチすると、バチンという音がした。  ケイはバスケットボールの経験はほとんどないが、ドリブルくらいなら少しはできる。掌を下に向けてボールをついた。 「あれっ」  床から跳ね返ったボールを、ケイは掌で受けそこなった。ボールはかなりの勢いで足元に転がっていった。アダムやジェニファーという女性が笑って、その様子を眺めている。 「だからうまくないっていっただろう。アイスホッケーならいいところを見せられるんだけどな」  照れ隠しで独り言が口をついてでた。クリフォードがボールを拾い、今度はノーバウンドでパスしてきた。ケイはコートに足を踏み入れ、再びチャレンジした。今度は軽く走りながらドリブルしてみた。今度は三度目でボールが掌からこぼれた。 「おかしいな」  ボールの感触がどこか違う気がする。 「どうだい、これが重力が三分の一ということさ。ドリブルするにはちょっとしたコツがいるんだ。地球と同じ力でボールをついたら、速度は三倍で跳ね返ってくる。ボールはレディにソフトタッチするように優しく。コツをつかんだら、あとは力加減次第でドリブルのスピードは自由自在さ」  クリフォードがケイの横に並び、上手にドリブルをして見せた。
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