9.ポールとクリフ

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9.ポールとクリフ

 二日目の特番も順調に終わった。農場のレポートとバスケットボールチームの紹介が主なテーマで、昨日よりは少しくだけた内容となった。放送時間は初回と同じく、アメリカ東部時間の深夜で、局からの返信によると、視聴率は前回より悪く、最高で三・八%台だった。 「気にするな。深夜枠としては悪くない数字だよ」  何かとケイの面倒を見てくれるディレクターのデイブ・マシューズはこうなぐさめた。だが、ケイには、全く納得がいかなかった。火星への関心が薄れているから仕方ないのだが、深夜枠でなければ、もっと大勢にレポートを見てもらえる。ただ、この現状が続く限り、余程大きなニュースがないと、ゴールデンタイムで放送する日は来ないかもしれない。  ケイはドアチャイムの音で目覚めた。こめかみの辺りが少し痛んだ。時計を見ると、もう午前十時を過ぎている。寝過ぎたようだ。二日連続の特番を終えて、気が少し緩んだのかもしれない。重い頭と足を引きずるようにして扉まで行き、横にある緑のボタンを押した。  ドアが開くと、そこに立っていたのは、隣の部屋のポール・ブラウンだった。眠そうなケイの顔を見て、かすかに驚いた表情をした。 「ごめん、寝ていたのかな」 「いや、構わないよ。ちょっと寝坊をしたみたいだ」 「特番はうまくいったようだね」 「ジャーナリストなら誰でも、ここに来ただけでいいレポートができるさ。何しろ、火星はニュースの宝庫だからね」 「確かに驚きの連続だね、ここは」  ポールはそう言いながら、何だか落ち着かないそぶりだった。 「どうかしたのか」  ポールは質問にすぐに答えなかった。起きたばかりで、若干貧血気味だったので、ケイは壁に片手をつき、答えを待ったが、ポールの口はなかなか開かれなかった。 「これからモーニング・コーヒーを飲むつもりなんだが、付き合わないかい」  そう言ってケイは、開いている手で部屋の中に招き入れる仕草をした。 「あ、そうだね。すまない。ごちそうになるよ」  ポールはおずおずと部屋に入ってきた。
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