9.ポールとクリフ

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「ビジター用の部屋には空きが二つある。そこに詰め込む気さ。もう、火星開発機構とは話がついた。取りあえず宇宙船に乗せて、火星に送り込んでさえしまえば、キャンセル料は発生しないで済むからね。火星での面倒は、俺が見ろよってことだ」 「ブレ博士は知っているのか」 「多分、もう連絡が入ったと思う。エンタープライズに二人の席を用意したのは、政治的な判断だ。強引にねじ込んだのさ。金の力でね。御曹司のおやじは、下院議員の有力支持者らしいから」 「誰が降りるんだ。二人の代わりに」 「詳しくは聞かなかったけど、クリフの助手を務めるはずだったエンジニアとコロニー居住者の交代要員が一人外れたらしい」 「それは…」  ケイは言葉に詰まった。二カ月後に出発する「マーズ・エンタープライズ」は、その時点の火星の位置からして、八カ月の航海期間が必要となる。つまり到着は今から十カ月後だ。  クリフ・リチャーズは、助手が到着したらすぐにコロニー・オリンポスの建設予定地に向かうはずだった。オリンポスでは来年のマーズ・カーゴ就航までに、コロニーの土台を整えなければならない。スケジュールはかなりタイトだ。  今ポールが言った次のエンタープライズでは、助手が一人とBMI遠隔ロボットが三体届き、フロンティア・コロニーのBS(ビルディング・スペシャリスト)三人を加えて、五人でオリンポスに金属工場の基礎を築く計画だった。クリフはその内容ですら、厳し過ぎるとこぼしていた。助手が来ないとなると、オリンポスでの工場建設計画が大きく狂う。 「残りの二人は予定通りなのか」 「コロニー滞在が五年を超えたクルー一組の交代は、何らかの事情があって譲れなかったらしい」 「ペアでない人間は外しやすかったという訳だな」 「そうかもしれないね。それにしても、余りにも急なことだったので、戸惑ってしまったんだ」
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