9.ポールとクリフ

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「そんなことはない。この星には、鉄や銅、アルミニウム、チタン、シリコン、ニッケル、マンガン、プラチナ、パラジウム、何だってある。予定通りの設備があれば、4N(フォー・ナイン)や5N(ファイブ・ナイン)レベルの製錬だって可能だ」 「4N?」 「純度99・99%ってことさ。この星の大気には、酸素がほとんどない。人間の生活には不便極まりないが、酸化還元を複雑に組み合わせる製錬作業には好都合な面もある。重力が低いというのも好条件だ。高炉の背を低くできる。二年あれば、このコロニーを百個は造れるくらいのチタンやステンレスの圧延板を作って見せるさ。複雑なシリコン化合物だって量産可能だ。低気圧、低重力というメリットを生かせば、地球でできない加工だってできる。地球へのお土産だって、ちゃんと用意できるんだ」 「お土産? 一体何だ?」 「私が言っているのは、種類ではない。量だよ。今の地球を見てみろ、鉄や銅などのベースメタルでさえ、深刻に不足している。世界中の鉱山を掘り尽くしてしまったんだ。だから、半世紀ほど前から、世界中が金属リサイクルに熱を入れている。ところが、今度は回収や再製錬に莫大なエネルギーが要り用になった。化石燃料を無制限に使っていた時代ならともかく、地球環境にこれ以上負荷をかけられない今の時代、どこをひねってもそんなエネルギーはでてこないよ。地球の金属事情は八方塞がりなんだ。しかし、同じ太陽系、しかも隣の星に、手付かずの鉱床が山ほどあったのさ。これを利用しない手はないだろう? クリフォード、発想を逆転してみろよ。これまでは地球や月が火星コロニーに必要な資源を送ってくれた。だが、その地球は、資源が底を尽きかけている。そうなったら、逆にこっちから運んでやるしかないだろう」
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