9.ポールとクリフ

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「技術は門外不出という訳か…」 「技術というより、やり方だよ。金属精錬の技術は、地球や月で既に確立されている。だが、火星での産業化は、まだ誰も試したことがない。火星独自の方法こそが企業秘密なんだよ」 「だから、コロニーの人間には手を触れさせたくないって訳か」 「そうさ、地球の将来を左右する大事業なのに度量の狭い話さ。だが、会社の上層部は、コロニーのMSが地球に帰還したあと、火星での経験や知識を他社に売ることを心配している」 「工場の建設はどうだ。チャーリーが来なくても、工場は作れるだろう」 「ああ、四、五人のBS(ビルディング・スペシャリスト)がいたら、一年以内に工場はできる。建設作業は遠隔ロボットがやってくれるからな」 「奴らなら倉庫に十体ほど眠ってるぜ」 「それは第二世代までの旧式だろう。今度やって来る奴は、第三世代の最新型だよ。神経への負担が格段に軽くなったので、五時間は連続で作業できる」  クリフォードは軽く口笛を鳴らした。 「これまでの倍以上か。作業効率は格段にアップするだろうな。でも、あの端末を五時間も神経につなぎっ放しにするというのは、いい気持ちがしない」 「ところが、だ」  リチャーズが目を輝かせて言った。 「今度のは、神経への負担が少ないだけじゃない。凄い機能が付加されたぞ。マシン側からの刺激を受け取れるんだ」 「どういうことだ」 「マシンの指先や足の裏に何百ものセンサーを埋め込み、それが拾った刺激を、オペレーターの脳に伝えるってことさ。まるで、自分がその場所で作業をしているかのようにね」 「じゃあ、あのもどかしさはないのか」
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