9.ポールとクリフ

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 BSのクリフォードは、コロニー施設の建設作業で、何度もBMI遠隔ロボットを動かしている。BMIの仕組みはこうだ。作業者の運動神経につないだプロセッサーが脳神経の信号を読み取り、それをコンピューターで処理する。このデータを受信した人型ロボットは、作業者が頭の中で考えたとおりに動く。要するに指一本動かすことなく、考えただけで、ロボットを遠隔操作するシステムだ。  初期の火星開発では、この手法を使い、地球からの遠隔操作で、原始的な装置を動かしたこともある。この時は、往復三十数分の時差のせいで、余りうまくは作動しなかったが、それでもロボットアームを動かし、パイプの接続や簡単な電気設備工事をこなすことができた。  第二世代に入ると、全身ロボットを動かせるようになった。これらは宇宙ステーションや月面基地のような真空、極小重力という厳しい条件下で、人に代わって基地建設の主役を担った。もちろん火星コロニーでもだ。マグガイバーは訓練と経験のお陰で、ほぼ自分の頭で考えた通りに遠隔操作できるようになっていたが、集中力を維持するのに、いつも苦心していた。それで何度か失敗もした。 「あいつを動かすのは、夢の中でテレビゲームをやるようなもんだ。ここだと思ってもロボットは思い通りに動いてくれない。逆に考えてもいない行動を突然始める時もある。たとえ思った通りに手足を動かせても、何と言うか、手応えが全くないんだ」 「これからは違うぞ。本当の意味でのヴァーチャル体験ができるよ。ネジを回したり、パイプの接続具合を確かめたり…。そういった手応えを、リアルタイムで感じられるんだ。素足で火星の地表を歩いた感覚も味わえるさ」 「そういう感じが返ってくるのは悪くない。作業は随分とやりやすくなるだろうな」 「ここのBSは凄腕揃いだ。新しいBMIをうまく使いこなすだろう。工場は予定通りできるさ。それは信じている。問題はその先さ。チャーリーがいないと、工場は運営できない。工場は一人で動かせるほど単純じゃない。当初の計画は大幅に後退させざるを得ないだろう」  クリフの愚痴は止まることを知らなかった。
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