10.目覚めた龍

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10.目覚めた龍

 マーズ・エンタープライズの搭乗者変更について意見を聞こうと、ケイは翌日、ユージン・ブレ博士の部屋を訪ねた。正午過ぎだったので、夫妻とアダムは、食後のティータイムの最中だった。居室からはアールグレイの上品な香りが漂ってきた。 「やあ、ケイ」  突然の訪問だったにもかかわらず、ユージンが笑顔で迎えた。奥の方で、アダムが何か言いたげにこちらを見ていた。カメラの配線図をプレゼントしてあげてから、アダムはケイに親近感を増したようで、会うたびに農場や工房に来るよう誘われていた。 「ちょっとお聞きしたいことが…。少しだけ時間をいただけますか」  ケイの真剣な表情を読んで、ブレ博士は顔色を少しだけ変えた。 「じゃあ、公会堂で話をしよう」  そう言ってブレは部屋を出た。 「すみません。せっかくのティータイムだったのに。アダム、今日は忙しいが、明日にでも農場でバスケットをしよう」  ケイがそう言うと、アダムの表情は一気に明るくなった。  公会堂には誰もいなかった。ブレは片隅の折り畳み椅子に腰掛け、「ちょうど良かった。実は私からもジェフにお願いがあったのだ。質問はあとからにして、まずは私の話を聞いて欲しい」と切り出した。ケイの五感がまたニュースの予感に震えた。 「このコロニー、というか火星開発にとって、極めて重大な事態が起こったかもしれない」
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