10.目覚めた龍

2/7
前へ
/295ページ
次へ
「それは次のエンタープライズの搭乗員変更の件ですね」  ブレはちょっと黒目を動かし、意外そうな顔をした。 「それも重大は重大だが、少し違う。今朝のことだが、火星開発機構本部から連絡が入った。中国がいよいよコロニー建設に乗り出すようだ」  確かに大きなニュースだが、ケイはこの言葉にさほど驚かなかった。地球を経つ数年前から、その噂は宇宙関係者の間で時間の問題とされていたからだ。 「噂は以前から聞いています。ついに始まるんですね」 「今度は噂ではなく、本当だ。月面基地に、かつてない大型のロケットが姿を現したそうだ。打ち上げ能力は二百トン級。地球のレベルでだよ。半世紀前の化け物、ロシアのエネルギア並みのロケットを月面から打ち上げるつもりだ。月の重力を考慮すると、実に地球なら千二百トン級にも匹敵する。打ち上げは一週間以内らしい」 「二百トン級、一週間…」  ブレの話は、地球を発つ半年前に聞いていた噂とは、かなり違っていた。中国は、火星開発機構が最初に取り組んだのと同じく、地球の基地からロケットを発射すると推測されていた。 「情報戦で完全に出し抜かれた。我々サイドが開発より観光に重点を置いた搭乗員変更を決めた直後にリークされたのも恐らく意図的だ。例によって、公式発表はまだされていないが、このタイミング、我々が開発ペースを遅らせる決定をする機会を狙っていたのだろう。着陸地点は、アルシアの付近のようだ」 「アルシア…。三連火山の一番南の山ですね」 「そうだ。三つの山のうちで、活動していた時期が最も古いと推測されている成層火山だよ。あそこには巨大なカルデラが幾つかあるが、そこの一つに狙いを定めているというのが、本部の見方だ。彼らは二年前の有人飛行で、あの近辺に降りている」
/295ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加