10.目覚めた龍

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 宇宙ステーションの運営、月面基地の建設、火星有人探査―。二十一世紀初頭の宇宙開発は、アメリカ、欧州宇宙機関(ESA)、ロシアの「宇宙三大国」を中心に、日本、カナダ、ブラジル、インド、オーストラリアなどが参加した国際協力体制の下で推進されてきた。しかし、二十億を超す人口を抱える大国・中国だけは、国際協力路線とは一線を画し、独自に宇宙開発の道を進んだ。現在、月面には、三カ所の国際基地があるが、それとは別に、中国だけが一国単独で基地を運営し、百人以上の人間を常駐させている。ただ、それは公式発表の範囲であって、実際には千人を超す人間が月に常駐しているとの噂もあった。 「しかし、中国がいずれ火星に進出してくることは想定済みだったのではないですか」 「その通りだ。すでに三度の火星有人探査を成功させているし、月面基地でも成功を収めた。火星でコロニーを運用していく実力があるのは確かだ。しかし、我々が驚いたのは、打ち上げロケットが六基も準備されていることなんだ。月面に三基、地球に三基だ」 「六基も…」。これにはケイも驚いた。  火星開発機構は、コロニー建設の初期段階で、人を運ぶ「マーズ・フェニックス」とは別に、資材運搬のために三基のロケットを打ち上げた。一つは発電装置のほか、酸素やメタンを生成する化学・機械ユニット、二つ目は入植者のための居住棟と帰還のための離昇ロケット、そして、第三陣で、核融合発電装置を送り、コロニーの基礎を築いたのだ。 「六基ということは、ここを最初に造った時の二倍の資材が届くということですね」 「いやそれ以上だよ。月面からエネルギア級を発射するなら、単純に計算して、能力は六倍。地球上ではあり得ない超巨大ロケットだよ。それが三基ある。地球から打ち上げる三基分がこれに加わる。中国はこれから二カ月ほどの間に、その六発のロケットを一気に打ち上げるつもりだ。我々が最初の二年間に送った資材の十倍、いや二十倍を運搬できるかもしれない。この物量作戦は脅威だ。アイスホッケーに例えるなら、こちらのプレーヤーは一セット分の五人しかいないのに、相手は、四セットフルにある状態だよ」 「長いゲームになったら、こちらの体力が尽きますね。第3ピリオドはボロボロだ」 ブレは頷いた。 「眠れる龍がついに目覚めたのかもしれない」
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