10.目覚めた龍

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「それにしても、随分性急ですね」 「疑問はそこだよ。中国がいずれこの星にやって来ることは分かっていた。コロニーを築くだろうこともね。しかし、これほど一気に物事を展開するとは…。君は中国の意図をどう考えるかね」  ケイは中国分析のスペシャリストではないが、中国の経済発展を現地でレポートしたことが何度かあるし、内モンゴルのロケット発射基地を取材した経験もある。中国人の友人も多い。ブレはそのことを知っているのだ。 「中国は、私たちがマーズ・フロンティアとコロニー・オリンポスでやろうとしていることを、一気に同時に達成しようとしているのではないですか」。  ケイは即答した。 「中国は二十世紀から二十一世紀にかけて、工業先進国の高度なシステムを、短期間に取り入れて急激な経済発展を果たした歴史があります。彼らは広い国土の隅々に電話線を引けなかった代わりに、携帯電話を一気に普及させました。僻地の小さな集落まで送電線を引けなかったら、最新の太陽電池や燃料電池で電力を供給したのです。中国は、集中がキーワードだった二十世紀後半の工業化や情報化に乗り遅れましたが、分散を指向した二十一世紀の初頭の新産業革命には上手に対応しました。そして何より、彼らにはマンパワーがあります。今、この時期に火星にコロニーを築くとすれば、ハブを持ってきて、何人かが滞在する程度では、ここの二番煎じです。やるなら、絶対に先手を狙うはず。それは、月面と同じパターンでしょう。六基のうち、半分は産業用のユニットではないかと思います。あらゆる分野で、一気にフロンティアを抜き去る気ではないでしょうか」 「やはりそう思うか…。私もそう見ている」
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