10.目覚めた龍

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「何か心配なことでもあるのですか。確かに信じられないような規模ではありますが、いずれこうなることは想定できたでしょう」  ブレ博士は目をつむって腕を組んだ。 「問題は―」  博士は目を見開き、真っ直ぐにケイを見て言った。 「火星旅行の『時限の窓』が開くまであと二年待たなければならないということなのだよ。地球と火星の距離からいくと、今回の最適期は君たちが乗って来たエンタープライズ1の飛行期間だ。ほぼ最短コースを選択できた君たちは半年で着けた。二カ月後に出発する2号機は、若干遅くなるが、それでも八カ月弱で着くことができる。無人のカーゴ船なら多少時間がかかっても構わないが、有人船は、宇宙線被曝量を考慮すると、地球と火星が接近する二年二カ月のサイクルを無視できない。中国が本腰を入れるのは、正直言って、次の接近時だと、我々は見ていた。しかし、今回のミッションで大量に打ち上げられる宇宙船は少なくとも七カ月以内には続々とアルシアの麓に到着する。金属素材生産の基盤を築いたら、二年後までに、コロニーのインフラは我々を大きく上回るだろう。それに引き換え、我々は、君も知っての通り、コロニー・オリンポスの建設さえ危うい状況になった。二年後に再スタートを切っても、中国には大きく遅れを取ってしまうだろう。我々に観光客を受け入れているような余裕はなくなった」 「月の二の舞はごめんということですね」  ブレの表情はますます硬くなった。 「月でも、我々は中国より先に恒久コロニーの建設に成功した。しかし、彼らの技術力、集中力を侮ったばかりに、肝心な産業化で後手を踏んでしまった。核融合炉の実用化で何とか面目は保っているが、このアドバンテージもいつまであるか分からない。火星でも後手を踏むと、月と同じように、世界の火星開発投資は中国に流れ始める。そうなると、フロンティアの不要論すら出かねない」
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