10.目覚めた龍

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「中国は何の目的で火星開発を急いでいるのでしょうか」 「正確には分からない。だが、純粋に経済的な意図ではないような気がしている。月でチタン鋼を精錬して、地球に運ぶような単純な絵は描いていないだろう。それにしては、仕掛けが大き過ぎる。これは、こちらの宇宙開発法案を受けた行動なのだろう。彼らの狙いは、スタートに出遅れたこの星で、我々を追い越し、一気にトップランナーになることではないだろうか」  月面開発が盛んになった二〇三〇年代、国際協力派と中国が基地建設にしのぎを削った。当初はアメリカを中心とする国際協力派が先行したが、金属、電力などの産業化がスムーズに進まなかったため、国際協力陣営の各国は予算を徐々に渋り始めた。  そもそも、月開発は、月面のレゴリスに含まれるヘリウム3を使って核融合発電を実用化し、それを地球に送電するというエネルギー問題が当初の大きな動機だった。しかし、その実現には予想以上の長い時間が必要だった。  大きな気象災害に悩まされていた欧州は、災害復旧に多額の費用を投入せざるを得ず、次第に宇宙開発に回す予算を捻出するのが難しくなった。月面発電の実現性が予算的な理由で遠のいたのを境に、各国の月への熱は急速に冷めた。参加各国の首脳会合は、方向性を見失って右往左往し、月面基地計画は一進一退を繰り返した。まるで、二十世紀後半の国際宇宙ステーション建設と同じような経過を辿ったのだ。
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