10.目覚めた龍

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 その一方で、中国は、原子力や太陽光による大規模な発電装置を月面に完成させたのを契機に、資本と人材をわずかの期間に集中投下した。迷走する国際協力陣営を尻目に、中国はその数年後、レゴリスから酸素を抽出する最先端のプラントを併設した恒久コロニーを月の北極付近で稼動させた。豊富な発電力を背景に、次のステップでは、チタン合金を製造する工場も国際協力陣営に先んじて操業し、一躍月面活動のエースに躍り出た。  中国の勢いの前に、国際協力派の国に本社を持つ企業ですら、中国の基地を支援し、月―地球間の交易事業をサポートしだした。希少で高価なチタン合金の製品が月から地球に定期的に運搬されるたび、それらの企業は、莫大な利益を上げ、同時に新しい時代を切り拓いた企業としての大きなステータスを手にした。  宇宙開発における中国の地位は、そうした経済的な成功を背景に、一層重要なものになっていた。 「ケイ、私たちには情報が必要だ。そこで一つ、お願いがあるのだが…」  ブレの言いたいことは、すぐに分かった。 「地球からできる限り情報を集めてみましょう」 「ぜひ頼むよ。これは、単なる覇権争いではないんだ。フロンティアは先頭を走ってこそ存在価値があると、私は信じている。二番煎じのコロニーに、国家予算に匹敵するような巨額の費用をつぎ込もうと、誰が考えるかね。彼らは、民間参入を促進するこちらの狙いを、火星開発の先頭ランナーに立つことで阻止したいんだ。ここは負けられない戦いだ」
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