11.帰還船カール

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11.帰還船カール

 ケイはすぐにUNN本社のディレクター、デイブ・マシューズに長文のメールを書いた。ブレ博士から依頼された中国の動向を探るためだ。UNNと火星開発機構の契約で、ケイは通信衛星のトランスポンダーのチャンネル一つをいつでも自由に使うことができた。  デイブは、ケイが海外勤務だったときからの相棒のような存在だった。記者は現場で取材する以上の時間を、情報収集や下調べ、裏取りに費やす。それは赴任先の海外で行うだけではない。さまざまな情報は本国アメリカで得られることが多い。デイブは陰で随分とケイに協力した。取材力は折り紙つきだ。  一時間ほど後、デイブはケイのメールに短い返信を寄越した。 〈了解した。その噂でこっちも大騒ぎになっている。調べてみるので少し時間をくれ〉  しかし、デイブからのメールは翌日も、その翌日も来なかった。取材が難航しているのだろうか。相手が中国だけに、それも頷ける。メールをただじっと待っていてもしょうがないので、ケイは来週放送分のレポートのネタ探しをすることにした。だが、マーズ・フロンティア自体が中国進出の噂に浮足立ち、レポートできようなトピックは見つからなかった。 「どうだジェフ、ちょっとした散歩に付き合わないか」  ネタ探しに苦労していたケイに声を掛けてきたのはクリフォード・マクガイバーだった。 「帰還船のメンテナンスに出掛けるんだけど、一緒に来ないか。たまにハブの外をうろつくのもいいんじゃないか」 「帰還船?」 「ここから五キロくらい先に発射場がある。今回は『カール』の整備だ」 「カール? カール・セーガンから名前をとった奴だね」 「ご名答、よく知ってたな」 「火星クイズで必ず出題される一問なんだ」
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