11.帰還船カール

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 帰還船までの移動は徒歩だった。火星活動車(マーズ・ビークル)を使えば、ほんの十分ほどの距離だが、運動を兼ねて自分たちの足で行軍することになったのだ。先頭はクリフォードが務めた。度々後ろを振り返りながら、ペースを作った。二番目がケイ、殿はジム・マディソンだった。 「中国はどのくらいの陣容で乗り込んでくるんでしょうか。大砲とかレーザー砲は持ってこないでしょうね」  クリフォードの声がヘルメットのスピーカーから聞こえてきた。  多少起伏はあるが、ほぼ平らな大地を、三人はゆっくりと歩いていた。地平線まで見渡しても、タルタロス山脈の端っこが遠くに貧弱な山肌をさらしている以外、周囲はほぼなだらかだ。見通しが良い分、地表には岩と砂以外、何もないのが、改めてよく分かった。 「私の得た情報だと、奴らは六発の巨大ロケットで合計二十人以上を送り込む。そのうち五人は軍人だ。装備は分からないが、もし完全武装だったら、その五人で丸腰のマーズ・フロンティアを占領するには充分だ」  マディソンは諭すように言った。 「人のうちにやって来て、いきなり銃を突き付けますかね」 「あの国の意図は分からない。このプロジェクトにはアメリカの企業の金も流れているから、すぐに行動を起こすとは思えないが、確かに言えるのは、それはいつ起こってもおかしくなくなったということだ。油断はできない」 「火星居住区に対する軍の見方が変化してきたということですか」  ケイは初めて発言した。マディソンが即答した。 「ケイ、ちょっと見方を変えてみてはどうだ。軍が積極的な関わりを検討し始めたということは、火星コロニーの重要性が社会的に認められたということになりはしないかね。軍隊というものは、価値のあるものしか守らない。地球から何千万㌔も離れた、浮世離れした科学者の居住区なんて、軍はこれまで守るべき存在とは考えなかったのだよ。ここに兵士を送り込もうと考え始めたというのは、火星コロニーの格が上がったということだよ。私には大きな進歩に思えるがね。予算確保という面でも、安全保障という新たな要素がからめば、これまでと事情は大きく変わってくる。軍の予算で、今までと同じ、いやそれ以上の活動だって可能になる。軍隊は常に戦闘している訳じゃない。調査や研究部門だってある。要はそれをうまく利用することだ」
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