11.帰還船カール

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「こいつらを埋めるのが大変だったんだぜ」  クリフォードがタンクの群れを指差して言った。 「地球ならショベルカーとブルドーザーがあれば二、三時間程度の仕事だが、人力だと一個埋めるのに一週間かかった」  クリフォードが説明している映像が、ヘルメットシールドの片隅に映しだされている。ヘルメットにマウントされた超小型カムを起動すると、撮影された映像がシールドに埋め込まれたディスプレイに映る仕組みなのだ。手持ちでカメラを構える場合もあるが、与圧服を着た状態だと、この方がはるかに楽だ。UNNの技術班が開発した最新のシステムだった。 「ここからハブに向かってパイプラインが通じているんだろ」 「そうだ。この下には、これまたバカでかい機械室が埋まっている。変電施設やガスの送出装置さ。水素やメタンは、液体で貯蔵しているが、ここで気体にして、圧力をかけてパイプラインで送り込む。まあ、一種の都市ガスみたいなものだよ」 「その機械棟を埋めるのも…」 「そりゃ大変だったさ。ただ埋めるならマシだが、メンテナンスするのに外から中に入れるようにしなくちゃならない。体育館の大きさの地下室を造るようなもんだ。コロニーの反対側には、バックアップが一セットある。二つの貯蔵施設を作るのに、ほとんど一年半は掛かったよ。だが、この備蓄のお陰で、外部からの補給が絶たれても、一年は生きていけるようになったのさ」 「それこそ…」  黙ってクリフォードの説明を聞いていたマディソンが言った。 「ここで破壊工作が行われたら、マーズ・フロンティアは終わりだ。だが、考えてみろ、爆薬が二、三個あったら、私一人でこの設備群を簡単に壊滅できる。今のコロニーは、そういう危うい状態なんだよ」
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