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クリフォードは、ゆっくりとした一定のペースで歩を刻んでいる。コロニーを出発した直後、歩行の速度が遅いとケイは思ったが、今ではちょうどいいくらいに感じている。居住棟エリアを離れるに従って、足元の赤い大地には埃と言ってもおかしくない程度の細かい砂が目立ってきた。ふわふわの地面に足が取られて、前に進むために余計に力が要るようになってきた。砂浜を歩いている感じだ。これが想像以上に体力を消耗させる。クリフォードはこれを見越して、最初から敢えてスローペースで歩いていたのだ。
「あれが帰還船だ」
休みなく一時間ほど歩いたところで、マディソンが言った。
三人は小さなクレーターの縁に立っていた。マディソンが右手で指し示した方角を見下ろすと、ちょうどハブを縦にして背を低くしたような円筒型の火星離昇カプセルが四基あった。チタン合金を主とした銀色の表面が、弱々しい太陽光を受け、鈍い輝きを放っている。百メートル以上離れていることもあり、離昇機下部にある六本のステーが、昆虫の脚のように見えた。四つのカプセルはほぼ正方形に配置されていて、その中央に燃料製造装置が収まった小さな建物があった。ケイは早速、ヘルメットカメラのスイッチを入れ、火星の住人たちから「空港」と呼ばれている発射場の全景を撮影した。
帰還船ツアーの翌日、その行程を五分程度にまとめて、UNNに送信した。デイブからの返信はまだなかった。
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