12.デイブからの返信

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 ケイはデイブのメールを貪るように読んだ。 〈有人ロケットは全て地球から打ち上げるらしい。驚くのは、今回火星に向かう全員が火星に降りる。乗っていった宇宙船は、無人で地球帰還ルートを取るようだ。この方法は火星開発機構も試したことがない。  乗組員のリーダーは、趙陽明。軍人。詳しい略歴は不明。他のメンバーは発表になっていないが、生命工学博士の林海孔と農学博士の江民邦が含まれている。中国筋は、「これはほんの序章だ」と言っている。  カレンの情報によると、中国の月面基地では一年ほど前から妙な動きがあった。一つは、地球へのチタン合金出荷量が昨年以降激減していたこと。中国広報官は「機器更新と技術者交代による一時的な生産性低下」と説明していたが、今思えばロケット製造に資源を回していたんだ。一方で、地球から月への飛行回数は、十月が三回、十一月が十回で、例年よりかなり多くなっていた。一体、わが陣営の情報収集能力はどうなっているのか。嘆かわしい事態だよ、これは。  中国の計画には、華僑から相当な資金が流入している。今回、中国が自発的にリークしたのも、資金を投じた企業に配慮したとの見方もある〉  デイブのレポートは分かりやすく、読みやすい。これだけの能力を持っているのに、記者職を志望しなかったのは、本当にもったいない。だが、デイブは入社以来ずっと内勤の制作部門に身を置いている。
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