12.デイブからの返信

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 ブレ博士は首を左右に振った。 「悪いが、今はまだ言えない。だが、ひとつだけ言えることがある。やられっ放しではいないということだ。マーズ・フロンティアの総力を挙げて、対抗策を取る。これからその下地作りを始める。こんなことをジャーナリストにお願いするのは無駄かもしれないのだが…」  このような話の展開は何度も経験がある。次の言葉は容易に予想できた。 「しばらくの間、今の話はオフレコにしてくれないか。下地作りは極めて繊細で壊れやすい。その…日本の言葉でいい表現があったが…」 「根回し、ですね」 「そう、その根回しをしっかりやって、中国が情報戦で勝利したように、こちらも彼らに尻尾をつかまれないようにしないと。決定までには時間が必要だ」 「でも、その時間はたくさんはありませんね」  ブレ博士は自分に言い聞かせるように頷いた。 「中国は来年の元日に一発目のロケットを打ち上げる。ロケットを打ち上げてしまえば、それ以降の計画は変更できない。六発のロケットを全部打ち上げたあとに、今度はこっちが大きな花火を打ち上げるというのはどうだい?」  取引というよりは、命令に近い。  記者の本能としては、この取引を飲むことに抵抗はある。だが、漠然とした今の話だけで、決定的なスクープ記事が構成できないのも事実だった。話を膨らませても、せいぜい中途半端な観測記事に止まる。そんな記事で、ブレ博士が考えている作戦を妨害する気にはなれなかった。 「分かりました。博士の起死回生の一策を楽しみにしていますよ」  ブレ博士は頬を緩めた。 「楽しみにしてくれて大いに結構だ。ケイへのボーナスはきちんと用意しておくから心配しないでくれ」
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