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13.ハッピー・ニュー・イヤー
激動の予感がする二〇六一年が明けた。食堂では前夜から連続して新年を祝うパーティーが続いていた。
食堂の定員は十三人なので、コロニー全人口の三十八人は一度に入れない。そこで、全体を三つのグループに分けて、時間を区切ってパーティーを開いているのだ。テーブルに並んでいるのは、地球の感覚でいうと大したごちそうではない。例によって火星産の野菜と果物が中心。だが、火星の住人にとって大事なのは、並んでいる食材よりも、大勢が集まってコミュニケーションを取ることだ。地球から数千万キロ離れたこの星で、生きている実感を味わうのに、パーティーは最適の催しなのだ。
第一のグループは、十二月三十一日の深夜、ちょうど午前〇時をまたいだ時間、第二グループは、一月一日午前七時から、第三グループは一月一日正午からの時間が割り当てられた。クループはくじ引きで決め、誰もが第一のグループを狙ったが、ケイはくじに外れて第三のグループになった。
そのグループに、的場誠一郎がいたのは幸いだった。
「ケイ、どうだい火星の新年は」
「今朝、火星の日の出を拝んできました。夏の正月というのは初めてですが、言葉では表現できない、不思議な気持ちですね。小さな太陽が荘厳に見えました」
「次の正月は冬だよ。冬の正月は過酷だぞ」
「一年のうちに、季節が二度巡ってくるというのは、不思議な感覚ですね」
的場は軽く笑った。
「火星の公転周期は地球の倍あるからね。地球時間に合わせると、ここの季節感とズレるのは仕方ない。それが宇宙の原理だから」
「いつまでもこのままなのでしょうか」
「いつかは火星独自の時計を回す日がくるだろう。だが、今はまだ地球のコロニーだ。火星時間を運用すると、数々の煩雑な調整が生じる。今のところは地球時間で物事を進める方が便利だよ」
「そうでしょうね。二つの時計を見ながら行動するのは、ちょっと面倒ですね」
UNNとの連絡のために面倒な時差計算を毎日のようにしているので、煩雑さは身に染みている。
「ところで、ケイ、新年に朝日を拝むというのは、日本では『ご来光』と言って、一月一日の大事なセレモニーなんだよ」
「厳粛な気持ちになりますね」
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