13.ハッピー・ニュー・イヤー

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「特に、この星だからね。地球の半分程度とはいえ、この大きな星に人間はたった三十八人しかない。宇宙の広大さと同時に、いかに生命が尊いものであるかを感じることができたのではないかな」  的場はフォークでメロンを食べていた。メロンは新年を祝うパーティーで一番人気だ。地球のものと比べると、甘味は今ひとつなのだろうが、採れたてを味わえること自体が贅沢なこの星では、この上ないごちそうに思えた。 「ケイ、君は日系二世だったね」  的場はメロンを頬張りながら聞いた。 「そうです。母が日本人、父がカナダ人です」 「日本には行ったことがあるかね」 「一度だけ。祖父母に会いに行ったきりです」 「祖父母はどこに」 「京都です」 「ほお」  的場は俺の顔を見上げた。 「京都はどの辺りかな。私も大学時代の六年を京都で過ごしたんだよ」 「詳しいことは分かりませんが、市の中心部からは少し離れていました。西の方だったと思います」 「嵐山の方角かな」 「そう、そう。嵐山から車で十分ぐらいの場所でした」 「京都はいい街だろう。今となっては日本情緒が残る数少ない土地だ」 「その通りです。しかし、最近の日本は悲惨な状態にあるようですね」  的場は途端に眉を曇らせた。 「ああ、私の母はまだ健在なのだが、あの首都震災で家を失った。幸い、命までは奪われなかったが」 「直後の巨大台風の被害も甚大でしたね。あんな規模の台風は見たことがない」 「最近の海水温の上昇は尋常じゃないからね。パワーがひと昔前と桁違いだ。地震、火山噴火、そして巨大化した台風。小さな島国には酷すぎる災害が短い期間に集中して起こってしまった」 「日本は火星開発に資金を投入できないほど国力が疲弊してしまいましたね」 「私の後輩がやって来るのも、当分先のことになりそうだよ。最新型のBMIは日本の技術なんだがな…」
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