13.ハッピー・ニュー・イヤー

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 パーティーの制限時間が残り少なくなってきた。ケイはこの場で、ぜひ的場に聞いておきたかったことがあった。 「博士。これから、火星の人口は急速に増えそうな気配ですね」  ちょっと遠回しだったが、ブレ博士の起死回生の一策についての情報を引き出そうという魂胆もあった。 「中国の『火星』は今日一号機が打ち上げられたはずだね。しばらくは、地球でも、火星でも騒がしい日々が続くのは間違いない。ケイはゴールド・ラッシュという言葉を聞いたことがあるかね」 「アメリカ開拓期の話ですね」 「そうだ。金鉱を求めて、多くの人と資本がアメリカ中西部の荒野を目指した。成功して巨万の富を得た人もいれば、惨めに失敗したケースもある。これから火星は一種のゴールド・ラッシュの時期になっていくのかもしれないと私は見ている」 「しかし、この星に当てるべき宝はあるのでしょうか」 「マネーやゴールドはないだろう。たとえあったとしても、地球に運んで今すぐ利潤を生むのは難しい。その意味では、この惑星に宝はないと言えるかもしれない。だが、我々は宝物を探すために火星を目指したのではない。火星には我々の科学的好奇心を満たしてくれる探索場所が山ほどある。さらに、ここには地球の全陸地に匹敵する大地があり、やり方次第では多くの人間が暮らしていくことができる。地球に万一のことが起こった時に、地球上の種を長期間保存できるのは、ここしかないと断言できる。巨大隕石の衝突、環境破壊、異常気象、スーパーボルケーノ、未知の伝染病、原因はいろいろある。地球の生命は、かつて、そうした災難で絶滅と再興を繰り返してきたが、この赤い星にコロニーがある以上、少なくとも今ある種の絶滅は回避できる。科学的な好奇心以上に、火星開発にはいろいろな意義があると私は思う」  これは的場の持論だ。これまでにも何度か聞いたことがある。カール・セーガンやスティーヴン・ホーキングも同じような趣旨のことを言っていた気がする。
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