13.ハッピー・ニュー・イヤー

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「経済論理に支配される宝探しゲームに、このコロニーが巻き込まれるとしたら、それは不幸なことかもしれない」  的場はさらに続けた。 「だが、逆に、このゲームを利用するという手はある。今まで、火星コロニーは、単なる科学実験場という位置づけだった。だから、開発に要する巨額の予算は、優先順位がなかなか上がらなかった。そこに、中国という大きな存在が競争を挑んできた。彼らの目的が何であるにせよ、これはある意味チャンスだと捉えるべきだと私は思うね。月で明確になったように、コロニー開発は、トップランナーにのみ潤沢な資金が流れ込む。だから、二番手になることは即ち、このコロニーの衰退を意味する。その結果、火星というフロンティアの開拓は他者の手に委ねざるをえなくなるし、主体的な科学探求も事実上、足踏みとなる。だから、中国の進出を逆に利用して、こちらにも資金と資材を振り向けさせればいいんだ。これまでは一人でマラソンをしていたから比較できなかったが、中国がどれだけのプロジェクトを展開しようとしても、それはまだ机上の計画だ。今の時点で、我々が火星でのトップランナーであることは疑いようがない」  的場の見方は、ブレ博士と似ているようだ。ケイも同じ考え方に傾きかけていた。 「中国は一体、何を目的にしているのでしょうか」 「それは、分からない。月に続いて、ここでも経済的な利潤を上げようと画策しているのかもしれないし、別の理由かもしれない。ただ、どちらにしても、中国は本気だ。我々は火星開発に対する考え方を一から改めなければならない」  的場は、サラダが盛られた大皿に向かって歩きだした。テーブルの上には、ソーセージや少しばかりの肉製品も載っている。
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