13.ハッピー・ニュー・イヤー

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「中国はやはり本気ですか」  ケイは甘酸っぱいミニトマトをほおばりながら尋ねた。 「そりゃそうだろう。二百トン級の打ち上げ能力のあるロケットを六発も連続で打ち上げるなんて、どこの国の宇宙機関もやったことがない。しかも、実験じゃない。その上には、先端技術が詰まったペイロードが載っている。乗り込む二十数人の飛行士や科学者も、エリート揃いだろう。絶対に失敗は許されない。相当な自信と覚悟がないと出来ないことだよ。我らの開発本部や政府連中にも、そのくらいの覚悟があれば、火星コロニーの規模は少なくとも今の数倍になっていたと思うよ」 「その通りですね。本部はフェニックスを投入して、オリンポスの建設を急ぐようですが…」  的場はふんと鼻息を荒くした。 「たった二人がやって来たくらいで、中国の意欲に対抗できると思うかね。問題は今度の飛行で何人送ってくるかではないんだ。肝心なのは意志の強さだよ。中国の目的が何にせよ、今回の計画には、その目的実現に強い意志を感じる。コロニーの規模云々よりも、その意志の強さが不気味だ。それに引き換え、こちらはどうだろう。オリンポスの整備スピードを当初の計画に戻したくらいでは、中国の決意には到底勝てない。二年後の完敗は明白だ」 「しかし、次のエンタープライズとフェニックスを出発させたあと、飛行適期は二年後にならないとやって来ません。代替策は見つからないんじゃないですか」 「だが、一つだけ方法があるんだよ」  こう言って的場は瞳を輝かせた。ケイは一瞬心臓が高鳴った。ニュースの予感が漂っている。 「これは絶対にオフレコだぞ。ブレ博士ときちんと煮詰めたあと、プランを本部に提出する。それまでは内緒だ。『火星』の六連発で、中国はこっちを出し抜いたつもりかもしれないが、今度は我々が奴らの肝を冷やしてやるんだ」 「一体、どんな方法で?」  ケイは先を急かした。
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