13.ハッピー・ニュー・イヤー

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「扱いは少々厄介だが、あることはある。帰還船だ」  ケイは相当驚いた顔つきをしていたのだろう、的場は少し笑いながら続けた。 「突飛な案で驚いたかね。このコロニーには現在、予備も含めて四基の帰還船がある。エンタープライズ用の二基は定員がそれぞれ四人、フェニックス用の二基は二人しか乗れない。私はこのフェニックス用に四人を乗せられないかと考えたんだ。火星軌道を何周か回って降りるだけなので、飛行時間はせいぜい数時間。水や食糧、それに燃料を大量に積み込む必要はなく、その空いた重量分で人を余計に乗せられると計算した。こうすれば、ビークルで行くのは二班六人で済むので、その分持っていける荷物は多くなる。向こうに着いたあと、帰還船を当面の居住スペースにも代用できる」  火星周辺にやって来る宇宙船や軌道を周回する人工衛星の運行管理を任務としている的場が言うのだから間違いはないだろう。恐らく、最少の燃料で無事にオリンポス・コロニーに着陸できる軌道計算を何十回もしただろうし、生活に必要な空気や水、食糧の計算も緻密に行ったはずだ。 「それで、計画はいつ決行するつもりなのですか」 「ビークルの二台、六人は五十日後に出発する。帰還船はその十日後、つまり二カ月後に打ち上げる。ビークル隊は、長めに見積もっても三週間でオリンポスに到着できるので、先着した帰還船班の四人が、一週間ほどかけて、ビークル班を迎える準備をすることになる。十人が揃ったら、エンタープライズ2が工場資材を届けるまでの五カ月間に、電気設備をはじめとした生活環境を整えたらいい」
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