13.ハッピー・ニュー・イヤー

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「かなり厳しい戦いですね」 「新型の遠隔ロボットなしに、どこまでアドバンテージが作れるかは分からない。だが、最も重要なのは、地球の人たちに我々の意志を示すことだ。中国は物量作戦で、一気に主導権を握ろうとしてきたが、彼らが忘れていることがある。それは、現在の火星開発の主役が我々だということだ。十年以上の歳月をかけて築いたコロニーがあり、三十人以上の優秀なスタッフがいる。彼らだって、到着してすぐの一年は、工場を動かす余裕なんてない。ハブ周りの整備、調整で手一杯だよ。そんな新参者に、経験豊富な我々が負ける訳はないだろう。こうした不測の事態に対処するのは、恐竜のように動きの遅い地球の本部じゃない。我々がやるべき事項なんだよ。ケイ、実は、私はこの日が来るのを待っていたんだ」 「待っていた?」 「そう。競争相手が現れて、火星開発が活性化する日をね。中国が本気になればなるほど、こちらも燃える。一人のマラソンじゃタイムは伸びない。これまで火星は静か過ぎたんだ。クリフの会社との契約にしても、これだけ状況が変われば、条件は見直されるかもしれない。そうなれば、送り込んだ優秀なMS(ミッション・スペシャリスト)が存分に能力を発揮でき、二年を待たずに工場稼働だ。我々が主体的に動くことで、物事はいい方向に転がりだすはずだ。私は楽観的過ぎるかな」  ケイは的場博士の言葉に疑問と興味がとめどなく湧いてくるのを抑えることができなかった。 「ところで、このプランはブレ博士と練っているのですか」  的場は軽く笑った。 「いや、これはあくまでも私の頭の中にあるだけの計画だ。だが、恐らくユージンも私と同じことを考えていると思う。いやユージンだけじゃないな。マディソンもだろうな」  そう話す的場の目は少年のように輝いていた。  ケイが自室に戻ると、デイブからメールが届いていた。 〈中国の「火星」一号機、発射に成功〉
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