14.辞令

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14.辞令

 新年気分が一段落したある日の午後、ケイはブレ博士に呼び出された。指定された時間に公会堂に行くと、ブレ博士は一人で壁の地球の写真を眺めていた。 「やあケイ、呼び出してすまなかったね」  ブレ博士は地球の写真から目を離さずに言った。 「いえ、それより計画の方はいかがですか。中国の『火星』は四号機まで打ち上げに成功しましたよ」  ブレ博士はこちらに向き直った。 「時が来た。私は明日、コロニーの全員にオリンポス建設計画の全容を説明するつもりだ。君にはその前に話しておきたいと思う」  ケイはつばを飲み込んだ。こんなに気持ちが高ぶったのは火星に来て初めてだった。 「新年パーティーで的場に聞いたと思うが、今回は陸空の二方面作戦だ。オリンポスのリーダーには、ジム・マディソンを指名する。経験や能力、リーダーシップを総合的に判断すると、彼しかあり得ない。政治的な動きやシモンズ大佐との関係には不安が残るが、マディソン以外の適任者は火星にいない。彼は月航路の宇宙船パイロットとして勤務した経験があるので、帰還船に乗り込んで先着してもらう」  質問は後回しだ。ケイはブレの説明をまずは聞くことにした。 「陸上班のリーダーはクリフォード・マグガイバー。二台のマーズ・ビークルを指揮し、到着後はコロニーの副司令官としてジムを補佐してもらう。地上班のうち、三人が建設、機械などを専門とするBS、二人がMSで原子物理学や地質学の専門家だ。帰還船班には、マディソンとクリフ・リチャーズが乗る。金属精錬に詳しいMSも一人送り込むことにした」 「クリフの会社との契約は大丈夫ですか」 「今、本部を通じて契約変更を打診しているところだ。中国の動きもあるし、この問題は恐らくクリアできるだろう」 「ところで、帰還船にはあと一人が乗れますね。誰を派遣するんですか」  ブレ博士は俺の目を見て、事務的な口調で言った。 「ケイ・コバヤシ。君だ」
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