14.辞令

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「マグガイバーも入っていますが、彼はマディソン副指令の右腕では?」 「クリフォードが?」 ユージンは軽やかに笑った。 「彼は大丈夫だよ。軍隊経験が少し長かったので、そういう見方をされがちだが、彼はマディソン側の人間ではない。だからこそ副官に指名した。彼は信用してもいいよ。今回の派遣メンバーの中に、マディソンやシモンズの信奉者は一人もいない。しかし、今後、地球から送り込まれてくるメンバーに関しては、どうすることもできない。恐らく、シモンズは万策を弄してマディソンを補佐する強力な人間を次々と紛れ込ませてくるだろう。だからこそ、君に行ってもらいたいんだ」 「分かりました。オリンポスに行きます」  ケイは即答した。ブレ博士はその答えをあらかじめ知っていたかのように、微笑みをもって受け止め、「いいのかい、じっくり考えなくて。会社との協議もあるんじゃないのか」と言った。 「いえ、ぜひ行かせてください。オリンポスのニュースは局にとっても喉から手がでるほど欲しいはずです」  ブレ博士はすぐに右手を差し出してきた。ケイが握り返すと、ブレ博士は左手を添え、両手でがっちりとケイの手を包み込んだ。 「帰還船は、ビークルの長旅よりは少しだけマシだと思う。あと、通信衛星とのアップリンクはこちらの責任として確保させてもらうよ。トランスポンダーを占有していても、地上にアンテナがなければ無用の長物になってしまうからね。この二つが私のできる最大限の贈り物だ」 「心遣い感謝します。私にとっては、それが何よりのプレゼントです」 「この任務には生命の危険が伴うが、保険はないよ。だが、約束しよう。危険を埋めて余りある、心躍る冒険が待っている」  ブレ博士が再び手をしっかり握ってきた。オリンポス・コロニー行きの辞令を渡された瞬間だった。
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