15.発表前日

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「いよいよ発表は明日だ。ホワイトハウスではアメリカ東部時間の午後九時に会見する。最も効果的な時間を選んだようだ。君にとっても、見せ場だね」  ブレ博士が今朝、誰よりも早くケイにニュース解禁の日時を連絡してくれた。ケイはすぐデイブにメールを送った。 〈九時のニュースのトップは決まりだ。詳細はメールで送っておいた。ホワイトハウスのレクチャーがあるので、表面上は同着になってしまうが、内容は圧勝だ。こっちにはどの局もできない現地レポートがある。V(ビデオ=録画)でレポートとコメントを長めに送っておくので、適当に使ってくれ。明日以降の素材も山ほどある。特番は予定しないのか?〉  しばらくしてデイブから短い返信が届いた。 〈火星に行って初めての大ニュースだな。独占スクープにできなかったのは残念だが、ケイの判断も理解できる。それにしても、火星に着任して三カ月ちょっとで転勤とは、そっちに行っても、相変わらず忙しい奴だな。特番だが、恐らく近いうちに計画されると思う。今度は間違いなく三〇%は超えるだろう。編成も大乗り気だよ〉  文面がどことなく弾んでいるような気がして、ケイの頬は自然と緩んだ。すぐに、厳選した映像とコメントを地球に送った。  ひと仕事を終え、ケイは一息入れようと農場を訪れた。この前来たのはいつだったか…。恐らく一週間以上前だろう。アダムは顔を合わせるたびに「バスケットしよう」と声を掛けてきたのだが、時間が思うように取れなかった。  午前十時という中途半端な時間だったので、農場には責任者のペドロ・クリベーラと助手が一人いるだけだった。 「やあ、ケイ。いよいよ発表の日だね」  黄色い作業着を来たいつもの格好のペドロは、野菜の入ったかごを抱え、ビール腹を揺らしていた。その姿は優秀な農学者というより、完全なる農夫だ。 「トマト食べるかい。こいつはいつにも増して出来がいい」 「ありがとう」。ケイはかごから一つ取って、丸かじりした。瑞々しく、甘かった。 「ますます味が良くなる感じがしますね。オリンポスに行くと、これが味わえなくなるのが、寂しいな」  ペドロはうれしそうに笑った。
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