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4.天才アダム・ブレ
「アダム君、こちらへ」
ケイは、公会堂の片隅に立ちインタビューの様子をじっと眺めていた少年に声を掛けた。少年はゆっくりとこちらに歩いてきた。表情は固い。
ブレ夫妻をインタビューしていた間、痩身の少年のことが常に気になっていた。何より目を引いたのは、その身長だ。まだ九歳だというのに、優に百七十センチを超えている。父の体格が遺伝したにしても早熟過ぎる。手足は華奢で、その分、頭が大きく見える。顔つきは父母の知能を受け継いだ聡明さをたたえているが、サラと同じ灰色の瞳には明らかな憂いが伺えた。テレビに緊張しているのとは、どこか違っているように見えた。
〈アンバランス〉
この少年をワンフレーズで表現するなら、この言葉がしっくりくる。
「アダム君、緊張しないでいいからね。難しいことは聞いたりしないから。お父さんやお母さん、そしてコロニーの友達のことを話してくれたらいいんだよ」
ケイが声を掛けると、アダム・ブレはこくりと頷いた。サラは自分と同じブロンドの髪をなで「いつも通りでね」と言った。
ケイは手元のスイッチでカメラの一時停止を解除した。レンズの上のランプが赤く灯った。
「次のゲストは、ブレ夫妻の長男で、初のマーズ・チャイルド、アダム・ブレ君です。アダム君、よろしく」
アダムはまだ緊張が解けない表情だが、「こんばんは」とはっきり言った。こちらは昼だが、放送時間帯のアメリカは夜だということを事前に説明しておいたが、アダムは自分であいさつの時制を選んだ。予想以上に賢い子だ。
「アダム君は今年で何歳ですか」
「九歳になりました」
「身長はどのくらいあるのかな」
「一メートル七十六センチです」
「いつごろから大きくなったのかな」
この質問には、サラが答えた。
「重力が地球の三分の一しかない火星では、身長が地球より伸びやすいようですわ。これは月面基地でも同様の傾向がみられていますね。アダムが生まれた時は、身長五十四センチ、体重三千二百グラムで至って普通でしたが、一歳一カ月で歩き出して以降は、地球より二、三割大きめに育っているようです」
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