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膨れっ面で返しつつ、帯刀が、自分に世話を任せてくれたことや、見えぬ眼で縁側に出、自分を待っていてくれたことがうれしくて泣きそうになっている於菟二だ。
花火が止んだからか、萩の葉陰に隠れていた蛍が姿をあらわし、消えては光り、光ってはまた消えて、帯刀のやさしい顔をほのかに照らす。花火はもちろん、淡い月影にさえ霞んでしまうほどの小さな光は、今このときを懸命に生きる命の光だ。
「どうした、於菟?」
黙りこんだ於菟二に、帯刀が声を掛ける。
「いえね。吹けば飛ぶようなちっぽけな光でも、光る蛍は、おいらよりずっと上等だなって思ったんでさ」
「ほう、ずいぶん弱気ではないか。蛍が光るのは、番う相手を引き寄せる為だと聞いたことがある。お前は十分光っていると思うがな」
「おいらの光なんか……」
云いかけて唇を結ぶ。
(嘘っぱちの偽物さ)
ドーン!
しばらく止んでいた打ち上げの爆音がとどろく。
少し遅れて、空が割れるような大音に竹林が震え、夜空に大輪の火の花が光をまとって咲き誇る。
「祭に行けなくて、すまぬな」
帯刀が手を伸ばして、於菟二の頬に触れる。
「知るかい、唐変木」
堪え切れずに嗚咽があがる。
「死んだら……いやですぜ」
云うのがやっとだ。
「お前もな」
帯刀の硬い手指が、於菟二の濡れた頬をやさしく撫でる。
「旦那、おいら……」
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