蛍火

1/22
前へ
/22ページ
次へ

蛍火

「虫の音を聞きながら蛍火が見られるとは、名賀浦とは不思議なところよ」  煙管で一服つけながら野田帯刀(のだたてわき)が云う。汗を浮かせた逞しい裸身をごろりと夜具に横たえ、蚊帳のうちに瞬く蛍火を見つめる。 「名賀浦の蛍は長生きなんでさ。この仲良し蛍も、きっと昨日からいたやつだ」  団扇をゆらして風を起こしながら、於菟二(おとじ)は返した。後ろに張り出した当世風の(つと)がほつれて、汗ばんだ白い首に張りついている。歳は二十六。ふわりふわりと舞う二匹の式部蛍を見上げる貌はやさしげで、ほどよく締まった細身の躯は、帯刀と同じくなにもつけていない。  行燈(あんどん)を消した(ねや)に淡い月影がさしている。風のない蒸し暑い夜だ。     
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加