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蛍火
「虫の音を聞きながら蛍火が見られるとは、名賀浦とは不思議なところよ」
煙管で一服つけながら野田帯刀が云う。汗を浮かせた逞しい裸身をごろりと夜具に横たえ、蚊帳のうちに瞬く蛍火を見つめる。
「名賀浦の蛍は長生きなんでさ。この仲良し蛍も、きっと昨日からいたやつだ」
団扇をゆらして風を起こしながら、於菟二は返した。後ろに張り出した当世風の髱がほつれて、汗ばんだ白い首に張りついている。歳は二十六。ふわりふわりと舞う二匹の式部蛍を見上げる貌はやさしげで、ほどよく締まった細身の躯は、帯刀と同じくなにもつけていない。
行燈を消した閨に淡い月影がさしている。風のない蒸し暑い夜だ。
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