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「二、三日経過見て効果が無さそうならまた言ってよ。別のに取り替えるからさ」
「通販の健康グッズみたいだ」
ツッコんだ僕に対して、口へ雑にクッキーの残りを放り込んだ明日香さんが席を立ちながら言う。
「ふぁふぁふぁんふぁかふぁ、ふぉんふいふぁふぁいふぉ(タダなんだから、文句言わないの)」
そして更にいくつかテーブルの上のお菓子をポケットに突っ込んでダイニングから出て行こうとする明日香さんに、依子さんが声をかけた。
「何、アンタこれからまた出かけるの?」
「ああ、うん。ちょっと」
「……はいはい、あんまし遅くなんないようにしなさいよ」
依子さんは軽く溜息一つついただけで、それ以上は何も言わなかった。
「明日香さん、ありがとうね」
「あ、いえ。ホント、効かなかったら言って下さい」
婆ちゃんが礼を言うと、明日香さんは少し気恥ずかしそうに頬を掻いて軽く頭を下げて出て行った。
「……明日香さん、いい子ね」
「まったく、ね。ロクに親らしい事してやれてない身からすると、その言葉も嬉しい半分、歯痒い半分てトコだけどね。よくこの歳までやさぐれずに育ってくれたよ」
何となくここへ来てから婆ちゃんと依子さんの話を聞いている限りでは母子家庭のようではあるけれど、家庭の事情はそれぞれで幸福の形も一つではないのである。
初対面の僕が口出しするには野暮な話題というものだろう。
そんな理由もあって何となく深入りするのも躊躇われたのでなるべく無難で当たり障りの無さそうな話でお茶を濁すことにした。
「けどポケットにあんなにお菓子詰め込んで出かけるなんて、よっぽど好きなんですかね」
「え? ああ、あれは違うのよ夢路君。あの子が食べるものじゃぁないんだ」
僕の話に、依子さんは笑って首を振る。
「あれはね、お供え物なんだ」
「……へ?」
前言撤回。
間を持たせるどころか、思い切り地雷原に足を踏み入れたようである。
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