一章  解決策は何処

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 (2) 「……まあ」  ウスツキの見立ては正しい。  驚異のアンチエイジング……と言えば胡散臭い美容品の通販番組で見るような話だけれど、現実に自分の家庭内でそんな事が起きると非常に問題が大きい。  元々実年齢五十代に対して見た目四十代でも通りそうな我が家の婆ちゃんではあったのだけれど、今回のは最早そう言った程度の話ではない。  先だってウスツキと鈴音に纏わる一件に於いて、僕は婆ちゃんの魂魄――精神体が十代の頃の容姿を留めている事を知った。  サクラ曰く、精神体は霊的な強さが姿にそのまま直結すると言う話だったのであの婆ちゃんであれば納得できなくもない話ではあるのだけれど……。  物理的な制約があるはずのこちらでまで若返られても困惑する……と言うか二十代の姿では地元の商店街もオチオチ歩けない状況になってしまう。  なまじ学生時代から付き合いのある人達が多いだけにかえって気づかれるとややこしい。  先刻八百屋前で僕と日野さんがコソコソしていたのも婆ちゃんの事を聞かれてボロを出したくないためで、若返りが顕著になり始めてからここ一週間ほど婆ちゃんは地元商店街で買い物などにも出ていない。  このまま姿を見せない状態が続くと安否問題になりかねないのが悩ましい所である。  意外にもどっしり構えているのは爺ちゃんで、自分の妻が昔の姿になった割にはいつも通りの受け答えをしているし動揺しているようには見えない。  ……まあ武骨で不器用な割に普段から孫がウンザリするくらいの惚気オーラを放っていたりするくらい婆ちゃんとは仲の良い人なので、若返ろうが何だろうが爺ちゃんにとってはいい意味で関係ないのかもしれないけれど。  とは言え世間体と言うのはそういうわけにもいかない部分もあり。  目下我が家ではサクラを中心にこの問題の解決方法を模索している状況なのである。 「あなたが一人で今悩んだってどうせ解決しないわよ」 「回答に容赦がなさすぎる」 「なら何か思いついた?」 「……駄目」 「ほらね」  言ってウスツキは、手にした御幣で僕の額を小突いた。  ああ、御幣と言うのはあの所謂飾りのついたお祓い棒である。 「祭具で人の頭を突くんじゃありません」 「あなたの雑念だらけの頭を祓ってるのよ」  くそう、酷い言われようだ。 「ま、サクラに聞いた話じゃ洋子自身も親戚筋に何かあたっていたみたいだから、そっちはそっちに任せて、あなたはやるべき事をしなさいな」 「……わかったよ」  まあ……なんというか。  いつの間にかウスツキ、鈴音だけでなく僕にも姉貴風を吹かせるようになっている気がするのは気のせいだろうか。
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