三章  欠けたもの

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 (11)  少しだけ開けたままの縁側に面した戸の隙間から、鈴虫の声が聴こえてくる。  夜はもうだいぶ涼しくなった。  まだ気温の高い日もあるとは言え、十月も半ばを過ぎると夜はやはり秋の様相である。 「……んーっ」  過去問と格闘していた僕は今日やる予定にしていた範囲の答え合わせをどうにか終わらせ、心地よい疲労感の中で思い切り背伸びをした。  関節がパキパキと音を立て、同時に集中が切れたためかつい欠伸が出てしまう。 「今日は、このへんにしておこうか」  日野さんは僕よりも早く同じ範囲の問題を解き終えていたようだけれど、僕の進捗と集中力を考慮してしくれたようである。  客間の時計に目をやると、もうじき日付も変わる時間だった。 「うん、そうだね」  傍らの布団の上ではウスツキと鈴音が寝息を立てている。  ウスツキが鈴音にせがまれて絵本の読み聞かせをしていた途中で二人とも寝落ちしてしまったようである。 「うーん……ずずね……たべすぎ……」 「……はんばー……ぐ……」  あまりにタイミングが絶妙過ぎて、聴いた僕達は思わず吹き出してしまった。 「はは……同じ夢でも見てるのかな」     
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